「TOEICの点数を上げたら、年収って上がるんだろうか」。勉強を始める前に、これは確かめておきたいところですよね。何百時間も投資するわけですから。
僕の答えはこうです。TOEICのスコア自体に年収を上げる力はない。ただし、スコアが「環境の移動」につながったとき、年収は大きく動く。
僕はデジタルマーケティング業界で10年働く現役会社員で、転職を4回経験して年収を3.5倍にしました。採用面接官として中途採用に関わった経験もあります。その立場から、英語と年収の関係を構造から解きほぐしていきます。
TOEICが年収に効く「構造」を理解する
まず大事なのは、英語力が年収に変わる仕組みです。仕組みは大きく2つしかありません。
1つ目は、応募できる求人が変わること。外資系企業や海外部門の求人には「TOEIC○○点以上」という要件が付いていることが多く、スコアがなければそもそも応募の土俵に乗れません。こうした求人は英語ができる人材の母数が限られるぶん、待遇が良い傾向があります。
実際、IIBCの公表データでは、英語を使う部署の中途採用でTOEICスコアを要件・参考にする企業の平均は620点。そして700点を超えると受験者の上位約3分の1に入ります。つまり700点前後から、「応募できる求人の地図」が目に見えて広がるわけです。
2つ目は、社内での配置が変わること。海外案件の担当、海外駐在、グローバルプロジェクトへのアサイン。英語ができる人にしか回ってこない仕事があり、それが昇進や手当につながるルートです。
逆に言えば、この2つのどちらにもつながらないなら、TOEICのスコアが何点だろうと年収は1円も動きません。ここが出発点です。
英語力で年収が上がりやすい職種・上がらない職種
構造を踏まえて、職種ごとの「英語の効き方」を整理してみます。あくまで求人市場を見てきた僕の整理で、個別の条件は企業により異なります。
| タイプ | 職種・業界の例 | 英語が年収に効く理由 |
|---|---|---|
| 直結する | 外資系企業全般 | 社内公用語・上司が外国人など、英語が業務の前提 |
| 直結する | 総合商社、メーカーの海外営業・海外事業 | 求人要件にスコアが明記され、応募資格そのものになる |
| 間接的に効く | コンサル、IT、マーケティング | 英語必須ではないが、海外案件・最新情報へのアクセスで差がつく |
| ほぼ効かない | 国内完結の営業・事務・販売・介護など | 業務で英語を使う場面がなく、評価制度にも反映されない |
ポイントは、「ほぼ効かない」職種でTOEICを頑張っても、今の会社にいる限り年収は変わらないということ。英語手当のような制度がある会社もありますが、それだけで年収が大きく変わることは考えにくいです。
一方で「直結する」職種は、英語ができる人材が常に足りていません。だからこそ要件を満たすだけで競争率の低い土俵で戦えます。外資系で実際に求められる英語力のレベル感は外資系に必要な英語力で詳しく書いています。
年収を決めるのは英語力より「居場所」
ここからが、この記事でいちばん伝えたいことです。
僕は転職4回・5社の経験で年収を3.5倍にしましたが、その過程で確信したことがあります。年収を決める最大の変数は、能力ではなく「どの市場・どの会社にいるか」だということ。
同じスキル、同じ働きぶりでも、利益率の高い業界と低い業界、成長している会社と縮小している会社では、もらえる給料がまるで違います。頑張る場所を変えるだけで年収が変わる。この話は年収は居場所で決まるで詳しく書きました。
TOEICと年収の関係も、まったく同じ構造で説明できます。
英語力は、それ自体が年収を生むのではなく、「待遇のいい居場所への移動チケット」として機能したときに初めて年収に変わるんです。外資系、商社、海外部門。これらは英語という参入障壁があるからこそ、待遇が守られている市場とも言えます。
だから「TOEICで年収アップ」を考えるなら、問いの立て方を変えるべきです。「何点取れば年収が上がるか」ではなく、「どの市場に移りたいか。そこに入るのに英語は何点必要か」。順番が逆なんですよね。
「社内で上げる」か「転職で上げる」か、ルートの違い
英語力を年収に変えるルートは、大きく2つに分かれます。それぞれ性質がかなり違うので、整理しておきます。
| 比較軸 | 社内ルート(昇進・異動・駐在) | 転職ルート(市場の移動) |
|---|---|---|
| 年収の上がり方 | 緩やか。評価制度の枠内 | 一度に大きく動く可能性がある |
| 英語の効き方 | アサインの優先順位が上がる | 応募要件を満たし、土俵が変わる |
| 時間軸 | 数年単位 | 数か月単位 |
| リスク | 低い。ただし会社の制度に依存 | 環境変化のリスクはある |
社内ルートの代表例は海外駐在です。駐在は手当や待遇面で年収が大きく変わることが多く、英語ができる人にチャンスが回ってきやすいポジションの筆頭。今の会社に海外拠点や海外事業があるなら、転職せずとも英語が年収に化ける可能性があります。
一方、会社に海外との接点がそもそもないなら、社内ルートは存在しません。その場合、英語を年収に変える手段は実質的に転職一択になります。自分の会社にどちらのルートがあるのか。勉強を始める前に、まずここを見極めてください。
僕自身は転職ルートで年収を上げてきた人間ですが、どちらが正解ということではなく、自分の会社の構造次第だと思っています。
TOEICを年収アップに変換する現実的なステップ
では具体的にどう動くか。僕が考える現実的な手順はこうです。
ステップ1:行きたい市場の求人を先に見る
勉強を始める前に、転職サイトで「外資系」「海外営業」など気になる求人を眺めて、要件のスコアと年収レンジを確認します。ゴールが具体的になると、必要な点数も学習のモチベーションも明確になります。
ステップ2:要件スコアまでの距離を測る
スコア100点アップには一般に200〜300時間の学習が必要と言われます(諸説あります)。現在地から要件まで200点足りないなら、働きながらだと1年仕事になるかもしれません。この見積もりをせずに走り出すと、だいたい途中で挫折します。学習計画の立て方は社会人のTOEIC勉強法を参考にしてください。
ステップ3:職務経歴との掛け算を設計する
採用側の視点で言うと、「英語だけできる人」より「○○の実務経験×英語」の人のほうが圧倒的に強いです。マーケティング×英語、経理×英語、エンジニア×英語。既存のキャリアに英語を掛け合わせる形で求人を探すと、年収レンジは一段上がります。英語をキャリア戦略の中でどう位置づけるかは英語はキャリアの武器になるかで整理しています。
ステップ4:スコアが出たら市場で試す
目標スコアに届いたら、職務経歴書を更新して実際に応募する。あるいは転職エージェントに登録して、紹介される求人の年収レンジがどう変わったかを確かめる。エージェントの活用法は転職エージェントの使い方にまとめました。
スコアを取って満足してしまう人が本当に多いのですが、移動して初めて年収は変わります。鍵を手に入れたら、扉を開けに行きましょう。
ちなみに、エージェントとの面談はスコアが目標に届く前でも受けられます。「あと100点上がったら紹介できる求人はどう変わりますか」と聞いてみると、自分の英語投資のリターンが具体的な年収レンジで見えてくる。これは独学のモチベーション維持にも効くので、早めにやっておいて損のない一手です。
英語の勉強が「割に合わない」人もいる
正直なことも書いておきます。
今の職種・業界で英語を使う見込みがなく、これからも国内市場で生きていくつもりなら、何百時間をTOEICに投じる優先度は低いかもしれません。同じ時間を職種のスキルや実績づくりに使ったほうが、年収への効率は良い可能性があります。
英語はあくまで選択肢の一つ。「みんな勉強しているから」で始めるには、重すぎる投資です。自分のキャリアのどこに英語がはまるのか、先に設計図を描いてからでも遅くないと思います。
判断の目安として、次の3つの質問に答えてみてください。
1. 行きたい業界・職種の求人に、英語要件は付いているか 2. 今の会社に、英語が活きる部署・案件・駐在のルートはあるか 3. 自分の職務経歴に英語を掛け合わせたとき、希少性は上がるか
3つとも「ノー」なら、いまの優先順位はTOEICではないかもしれません。1つでも「イエス」があるなら、英語は年収を動かすレバーになり得ます。投資する価値は十分あるはずです。
まとめ
TOEICと年収の関係を整理します。
- ▸スコア自体に年収を上げる力はない。スコアが「環境の移動」につながったときに年収が動く
- ▸英語が年収に直結するのは外資系・商社・海外部門など、英語が応募要件になる市場
- ▸国内完結の職種では、スコアを上げても今の会社では年収はほぼ変わらない
- ▸目安は700点。受験者の上位約3分の1に入り、英語を使う求人の土俵が広がる
- ▸順番は「行きたい市場を決める→必要スコアを逆算→職務経歴と掛け算→市場で試す」
年収は能力だけでなく居場所で決まる。英語はその居場所を変えるための、強力なチケットになり得ます。チケットを取るだけで終わらせず、ぜひ移動まで使い切ってください。
