「TOEICを受けたけど、このスコアで転職に使えるのかな」「求人票に書いてある点数に届いていないと、応募しても無駄なんだろうか」。転職を考え始めると、自分のTOEICスコアの市場価値が急に気になりだしますよね。
先に結論をお伝えします。転職市場でTOEICが意味を持ち始めるのはおおむね600点から、英語を使う職種なら700点以上が一つの目安。そして「ビジネス英語として通用する」という文脈では、公式基準上のラインは730点です。この2つは似ているようで、見ている物差しが違います。
僕はデジタルマーケティング業界で10年働きながら4回転職し、大手企業では採用面接官として候補者の履歴書を数多く見てきました。この記事では、その経験と公表データをもとに「採用側はTOEICスコアをどう見ているのか」「ビジネスの現場でスコアはどう評価されるのか」を正直に書いていきます。
結論:「転職の入口は600点」「ビジネス英語の公式ラインは730点」
TOEIC L&Rの公開テストの全受験者平均スコアは615点(2024年度・出典:IIBC「TOEIC Program DATA & ANALYSIS 2025」)。つまり600点前後は「受験者のちょうど真ん中あたり」で、ここが「履歴書に書いてマイナスにならないライン」と言われる理由です(線引きの詳細はTOEICは履歴書に何点から書ける?へ)。
もう一つ参考になるのが、IIBC(TOEICの運営団体)の「英語活用実態調査」です。2019年版では、英語を使用する部署の中途採用でTOEICスコアを要件・参考にする企業の期待スコア平均は620点。意外と低いと感じませんか。
直近の2022年版では、企業が社員に期待するスコアがもう少し細かく出ています。
| 対象 | 期待するTOEIC L&Rスコア(平均) |
|---|---|
| 新入社員 | 550点 |
| 中途社員 | 580点 |
| 技術部門 | 560点 |
| 営業部門 | 580点 |
| 海外部門 | 705点 |
(出典:IIBC「英語活用実態調査【企業・団体/ビジネスパーソン】2022」)
海外部門だけが705点と一段高く、それ以外は500点台後半。「外資系は800点必須」みたいなイメージが先行しがちですが、企業側が実際に口にしている数字は思っているより手が届く位置にあります。英語の市場価値は「点数の高さ」より「英語が要件になっている求人に応募できるかどうか」で決まる、というのが英語はキャリアの武器になるかでも書いた僕の立場です。
「ビジネス英語として何点?」の公式回答は730点
ここで転職の話といったん切り離して、「ビジネス英語としてのTOEIC評価」を整理しておきます。IIBCは、TOEICスコアとコミュニケーション能力レベルの相関表(Proficiency Scale)を公開していて、内容はこうなっています。
| レベル | スコア | 評価(ガイドライン) |
|---|---|---|
| A | 860点〜 | Non-Nativeとして十分なコミュニケーションができる |
| B | 730〜860点 | どんな状況でも適切なコミュニケーションができる素地を備えている |
| C | 470〜730点 | 日常生活のニーズを充足し、限定された範囲内では業務上のコミュニケーションができる |
| D | 220〜470点 | 通常会話で最低限のコミュニケーションができる |
| E | 〜220点 | コミュニケーションができるまでに至っていない |
注目してほしいのはレベルCとレベルBの境目にある730点。C帯の「限定された範囲内では業務上のコミュニケーションができる」という表現、かなり正直だと思いませんか。600点台は「業務で英語が使える」ではなく「限られた場面なら何とかなる」なんです。730点を超えて初めて、評価文が「どんな状況でも」に変わる。
世間で「ビジネスレベル=TOEIC700点」と言われるのは、この730点をキリよく丸めた目安だと考えると納得がいきます。求人票の要件も「700点以上」という書き方が圧倒的に多いので、実務的には700点を目標に置いて構いません。ただ、700点はゴールではなく入口だという感覚は持っておいたほうがいい。700点の位置づけはTOEIC700点の壁で詳しく解説しています。
求人は実際に何点を要求しているのか
「企業が期待するスコア」と「求人票に書いてあるスコア」は別物です。後者を見ていきましょう。
スコア要件がある求人は、思ったより少ない
転職エージェントのJAC Recruitmentが公開している自社求人データ(2026年3月時点)では、TOEICスコアが応募要件・歓迎要件として設定されている求人は日系企業で約5.8%、外資系企業で約8.4%。9割以上の求人には、そもそもスコアの記載がありません。
これは「TOEICは意味がない」という話ではなく、英語要件は職種の構造で決まるということ。スコアを転職に活かしたいなら「スコアを上げる」より先に「スコアが要件になっている求人群に自分の経歴が届くか」を確認したほうが早いです。英語不要のキャリアとの分岐点は英語ができないと転職で不利になる?で整理しました。
要求スコアは「700点以上」が最多
では、要件が付いている求人はどのくらいの点数を求めているのか。同じデータのスコア分布がこちら。
- ▸600点未満:16.5%
- ▸600点以上:31.1%
- ▸700点以上:32.7%
- ▸800点以上:19.6%
- ▸900点以上:0.1%
700点以上が最多で、600点台までを合わせると約半数。900点を要求する求人はほぼ存在しません。ここでも「800点ないと勝負にならない」というイメージが実態とずれていることがわかります。
職種・業界によって要件率は10倍以上違う
同データの内訳も示唆に富んでいます。TOEIC要件が付く求人の割合は、職種では法務・知財13.9%、購買・物流・生産管理10.1%と高く、逆にIT 4.3%、WEB・アプリ・ゲーム 2.6%、クリエイティブ 2.0%と低い。業種では商社14.7%が突出しています。
契約書や海外サプライヤーとのやり取りが業務に組み込まれた領域ほど高く、国内市場向けの職種は低い。自分の職種がどちら側かを知っておくと、スコア投資の優先度を判断しやすくなります。
これらを踏まえた目安が次の表です。実際の基準は企業により異なるので、当たりをつけるための整理として見てください。
| 職種・業界のタイプ | 目安スコア | 評価のされ方 |
|---|---|---|
| 英語を使わない国内職(営業・事務など) | 600点〜 | 加点要素。学習姿勢の証明になる |
| 国内企業の海外部門・海外営業 | 700点〜 | 応募の土俵に乗るライン |
| 外資系企業(日常的に英語を使う) | 800点前後〜 | スコアは前提条件。実務で使えるかが本題 |
| 商社・メーカーのグローバル職 | 700〜800点 | 要件として明記されることが多い |
ポイントは、700点を超えると受験者の上位約3分の1に入るということ。ここから先は「英語ができる人」として求人の選択肢が目に見えて広がります。
なお、要件率が低い業界だからスコアが無価値かというと、そうでもありません。僕のいるデジタルマーケティング領域では、ツールのドキュメントや海外の事例記事を英語のまま読める人とそうでない人で情報の鮮度に差が出ます。要件に書かれていなくても、英語力が職務経歴の説得力を裏から支えるケースはある、ということですね。
ビジネスの現場でTOEICはどう評価されるのか
ここが、スコアの話で一番誤解が多いところです。「TOEIC◯◯点あります」と言ったときに、現場が何を受け取るのか。
L&Rは「読む・聞く」しか測っていない
大前提として、TOEIC L&Rはリスニング100問・リーディング100問のマークシート試験で、話す・書くは一切測定していません。一方、実際に英語を使う場面は会議での発言、メールの作成、オンライン会議での即応と、アウトプット側の比重がかなり大きい。ここがスコアと実務のあいだに横たわる構造的なギャップです。
IIBCの2022年調査では、L&Rと並んでS&W(Speaking & Writing)の期待スコアも公表されています。中途社員でSpeaking 120点・Writing 120点、海外部門ではSpeaking 140点・Writing 150点。企業側も「L&Rだけでは足りない」と認識し始めている、と読めるデータですね。
「スコアはあるのに使えない」が起きる理由
730点を取っていても、実際の会議で黙ってしまう人がいます。原因は英語力の総量というより、種類の問題です。
- ▸選択肢から選ぶ力はあるが、ゼロから文を組み立てる回路ができていない
- ▸業界固有の専門用語が試験範囲外で、商談の流れについていけない
- ▸議事進行の定型フレーズ(言い直し、割り込み、確認)を知らない
- ▸テストの音声はクリアだが、実際の相手はアクセントも速度もバラバラ
逆のパターンもあります。スコアは600点台でも、担当領域の英語だけは滑らかに回せる人。日々のメールと定例会議で使う英語が固定化されていて、その範囲で必要十分な運用ができているケースです。現場の評価は「点数の高さ」ではなく「担当業務が英語で回るか」で決まるので、こういう人はきちんと評価されます。
だからこそ、外資系では高スコアでも「で、実際に話せるの?」が必ず問われる。スコアと実務英語のギャップについては外資系に必要な英語力、アウトプットまで含めた学習の順番はビジネス英語の勉強は何から始める?にまとめました。
それでも企業がスコアを見るのはなぜか
ここまで書くと「じゃあTOEICは意味がないのでは」と思うかもしれませんが、そうはなりません。IIBCの調査では、採用時にTOEICスコアを要件・参考にしている、または今後その可能性がある企業は73.6%とされています。
理由はシンプルで、採用側にとってスコアは「比較できる共通言語」だから。「英語は日常会話程度です」という自己申告は候補者ごとに基準がバラバラですが、700点という数字は誰が見ても同じ意味に読める。実務能力を完全には反映しないと分かったうえで、なお比較の起点として使われている。この温度感を掴んでおけば、スコアへの過剰な期待も過剰な軽視も避けられます。
面接官として見てきた「スコアの扱われ方」
書類選考では「足切り」と「目に留まるきっかけ」
書類選考でTOEICが効くのは主に2つの場面です。
一つ目は足切りの回避。求人要件に「TOEIC700点以上歓迎」とある場合、書いていなければその時点で候補から漏れる可能性があります。逆に要件を満たしていれば、それ以上スコアの高低で細かく差がつくことはあまりありません。
二つ目は、職務経歴が同レベルの候補者が並んだときの「一歩の差」。経歴がほぼ同じ2人なら、TOEICで継続学習を証明できているほうに目が行く。これは面接官をやっていて実感したことです。
面接でスコアが話題になる瞬間
面接でTOEICが話題になるのは、実はスコアそのものより「なぜ受けたのか」「どう勉強したのか」のほうです。
僕が面接官側で印象に残っているのは、スコア自体は平凡でも「業務で海外とのやり取りが増えそうだったので、半年前から朝の時間で勉強を始めました」と語れる人でした。目的意識と行動が一本の線でつながっている。これは仕事の進め方の再現性として評価できます。
逆にもったいないのは、高スコアなのに「就活のときに取ったきりです」で終わるパターン。スコアに公式な有効期限はありませんが、何年も前のスコアだけだと「今も使えるのか」と疑問符がつきます。
聞かれてもいないのにスコアの話をしなくていい
英語が要件でない職種の面接で、自己PRの中心にTOEICを据えてしまう人がたまにいます。これは構成として損。面接官が知りたいのは「入社後に何で貢献してくれるか」であって、英語が業務に直結しないなら、TOEICは「継続的に学ぶ姿勢の証拠」として一言添える程度がちょうどいい塩梅です。
逆に英語が要件の職種なら、スコアの話は向こうから振られます。そのときに「点数の先」、つまり英語でメールを書いた経験や、海外の情報源を仕事に活かした話まで用意しておくと強いですね。
要件スコアに届いていないとき、応募を見送るべきか
求人票に「TOEIC700点以上」とあって、手元のスコアが650点。このとき応募をやめるべきでしょうか。
僕の意見は「要件の書き方次第で、出してみる価値はある」です。求人票の英語要件には温度差があります。
- ▸「必須」と明記されている場合:要件未達での通過は難しいのが正直なところです
- ▸「歓迎」「尚可」と書かれている場合:職務経歴がマッチしていれば十分チャンスがあります
- ▸「700点程度」「同等の英語力」という表現の場合:選考中の学習姿勢や実務経験でカバーできる余地があります
採用側も「スコアは目安、欲しいのは職務経歴がマッチする人」と考えているケースは珍しくありません。要件をすべて満たす応募者だけで採用が埋まることのほうが、実際は少ないんです。判断に迷うなら転職エージェント経由で応募するのが賢い方法。エージェントは企業側の「本音の要件」を知っていることが多く、未達でも推薦してもらえるかを事前に確認できます。
それでも主役は職務経歴、という現実
ここまで書いておいてなんですが、はっきり言います。中途採用で内定を決めるのは職務経歴であって、TOEICではありません。
僕は4回の転職で5社を経験しましたが、TOEICのスコアが合否を分けた場面を、採用側としてもほとんど見たことがないんです。決め手になるのは常に「何をやってきて、何ができる人か」。職務経歴がメインの武器で、TOEICはその武器を運ぶための通行手形、というイメージが近い。
通行手形がないと門前払いされる求人がある。でも、手形だけ立派でも中身がなければ採用されない。この力関係を見誤って「まずTOEICを上げてから転職活動しよう」と何年も先送りするのは、正直もったいない選択だと思います。
スコアが年収にどう跳ね返るのかという観点はTOEICと年収の関係に整理しました。スコアと職務経歴のどちらを磨くべきか迷ったら、転職エージェントに今の市場価値を聞いてみるのが手っ取り早いです。使い方は転職エージェントの使い方にまとめています。
これから受けるなら、何点を目指すべきか
現実的な戦略はシンプルです。
- まず600点。履歴書に書ける最低ライン。平均スコア(615点)に近く、到達の現実味があります
- 次に700点。受験者の上位約3分の1に入り、英語を使う求人の土俵に乗れます。求人要件としても最多帯です
- 730点で「ビジネスレベル」の公式ラインに乗る。Proficiency ScaleのB帯に入る節目
- 800点以上は「必要になってから」。外資系やグローバル職を本気で狙う段階で考えれば十分です
スコア100点アップには一般に200〜300時間の学習が必要と言われます(諸説あります)。働きながらだと半年〜1年がかりの投資になるので、「転職活動と並行して勉強し、スコアが出たら職務経歴書を更新する」くらいの動き方が現実的ではないでしょうか。忙しい社会人向けの組み立て方は社会人のTOEIC勉強法に書きました。
注意したいのは、「キリのいい点数を取ってから動く」を理由に転職のタイミングを逃すこと。求人には募集期限があり、いい求人ほど早く埋まります。スコアは履歴書の一行ですが、タイミングは取り戻せません。点数を磨く時間と、市場に出るタイミング。両方を天秤にかけて動くのが、4回転職した僕の実感としてのベストです。
まとめ
転職とビジネス英語、それぞれの文脈でのTOEICの目安を最後に整理します。
- ▸600点=履歴書に書いてマイナスにならないライン(全受験者平均は615点/2024年度)
- ▸620点=英語を使用する部署の中途採用で参考にされる期待スコア平均(IIBC 2019年調査)
- ▸700点=受験者の上位約3分の1。求人の要求スコアとしても最多帯(32.7%)
- ▸730点=Proficiency ScaleのB帯。「ビジネス英語」としての公式スタートライン
- ▸スコア要件がある求人は日系5.8%・外資8.4%。英語要件は職種の構造で決まる
- ▸L&Rは読む・聞くしか測っていない。現場の評価は「担当業務が英語で回るか」
- ▸評価の主役はあくまで職務経歴。TOEICは足切り回避と「一歩の差」のための補助材料
スコアが足りないからと応募をためらうより、今の経歴で勝負しつつ並行してスコアを育てる。それが、採用側と転職者側の両方を経験した僕の結論です。
