「リスキリング補助金でスクールの受講料が最大70%オフ」という広告と、「教育訓練給付金で最大80%支給」という広告。両方見かけて、結局どの制度でどのスクールに通えば安くなるのか、分からなくなっていませんか。
無理もありません。今の日本には、社会人の学び直しを支援する国の制度が2系統走っています。経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」と、厚生労働省の「教育訓練給付金」。名前も似ているし、どちらもスクールの受講料が安くなる制度ですが、仕組みも対象者も、使えるスクールの見つけ方もけっこう違います。
僕は転職を5回経験してきた在職転職派なので、「働きながら学んで、市場価値を上げて動く」人の目線でこの2つを見比べてきました。この記事では、2026年7月時点の情報をもとに、両制度の違いと、補助金で通えるスクールの見分け方、そして在職中の会社員の使い分けを整理します。
リスキリング補助金で使える2つの制度を表で整理
まず全体像から。細かい条件の前に、この表で構造を掴んでください。
| 項目 | リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業 | 教育訓練給付金(専門実践の場合) |
|---|---|---|
| 管轄 | 経済産業省 | 厚生労働省(雇用保険の制度) |
| 支給率 | 修了で1/2(上限40万円)+転職して1年継続就業で1/5(上限16万円)=最大70%(上限56万円) | 修了で50%+1年以内の雇用で70%+賃金5%以上上昇で最大80%(年間上限64万円) |
| 転職が前提か | 前提。キャリア相談を受けて転職を目指すことが申込条件 | 前提ではない。在職継続でも修了分(50%)は受け取れる |
| 個人が使えるか | 在職者向け。個人事業主・フリーランス・役員は対象外 | 雇用保険の加入期間要件を満たせば在職・離職後一定期間内どちらでも可 |
| スクールの探し方 | 採択された補助事業者の講座から選ぶ | 厚労省の教育訓練講座検索システムで対象コースを探す |
| 窓口 | 補助事業者(スクールやキャリア支援会社)経由 | ハローワーク |
| 事前手続き | 補助事業者のキャリア相談 | 訓練前キャリアコンサルティング+ジョブ・カード+受給資格確認 |
ざっくり言えば、「転職するなら経産省、転職するとは限らないなら厚労省」。これが一番シンプルな整理です。
教育訓練給付金の3区分(一般・特定一般・専門実践)の詳細や雇用保険の要件は教育訓練給付金の完全ガイドで解説しているので、ここでは省きます。
補助金で通えるスクールの見分け方
制度を理解しても、いざスクールを選ぶ段で迷います。「このスクール、本当に補助金が使えるの?」という不安をつぶすには、確認する順番が大事です。僕が見てきたなかで押さえておきたいポイントを挙げます。
スクール単位ではなく「講座単位」で対象を確認する
一番の落とし穴がここです。同じスクールでも、補助金が使える講座と使えない講座が混在しています。「◯◯スクールは補助金対象」という情報を見て申し込んだら、自分が受けたいコースは対象外だった、という取り違えは起こりがちです。
経産省のリスキリング支援事業なら、公式サイトに「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業 対象講座」と明記されているか。教育訓練給付金なら、厚労省の教育訓練講座検索システムで、そのコース名がヒットするか。ここをコース名レベルで突き合わせてから、無料カウンセリングに進むのが安全です。
経産省の対象講座は「補助事業者」経由でしか使えない
教育訓練給付金がハローワークで手続きする制度なのに対し、リスキリング支援事業は国に採択された補助事業者を経由して使います。補助事業者というのは、スクール運営会社やキャリア支援会社のこと。利用者は補助事業者が提供する講座の中から選び、申し込みもその事業者経由になります。
つまり「どのスクールでも使える」のではなく、補助事業者として採択されているスクールのラインナップの中から選ぶ制度だということ。気になるスクールが補助事業者として名を連ねているかを、まず確認してください。
分野はデジタル系が中心。ただし医療・介護系も
リスキリング支援事業の対象講座は、プログラミング、Webデザイン、データ分析、生成AI活用といったデジタル・IT系が中心です。加えて、医療、介護・福祉、保育といった分野の講座も対象に含まれます。テックアカデミー、デジタルハリウッドをはじめ多くのスクールが補助事業者として参加しており、給付金対象スクールの顔ぶれと重なる部分も多くあります。
主要スクールの比較は給付金対象のプログラミングスクール比較に、生成AI系の講座は生成AIスクールの選び方にまとめています。
教育訓練給付金は対象がもっと広く、IT系に加えて簿記・宅建などの資格講座、看護・介護系の養成課程まで含みます。IT以外の選択肢も視野に入れたい方は転職に効く資格の選び方も参考にしてください。
経産省リスキリング支援事業の仕組み
補助率が高く、転職支援まで付いてくるリスキリング支援事業。使う前に、独特な点を順に押さえておきます。
キャリア相談と転職がセット
この事業の最大の特徴は、講座の前にキャリア相談を受け、転職を目指すことが組み込まれている点です。流れはこうなります。
- 補助事業者のキャリアコンサルタントに相談する(無料)
- 相談を踏まえて講座を受講する(受講費用の1/2・上限40万円を補助)
- 転職し、1年間継続就業すると追加補助(1/5・上限16万円)
合計で最大70%、上限56万円。なお補助額の計算は受講費用の税別額がベースになる点は、細かいですが覚えておいて損はありません。受講料が50万円のコースなら、修了時点で最大25万円、転職して1年続けばさらに補助が乗る、というイメージです。
「キャリア相談が必須」と聞くと面倒に感じるかもしれませんが、僕はこれ、悪くない設計だと思っています。数十万円の講座を選ぶ前に第三者とキャリアの棚卸しをする機会が強制的に入るわけで、勢いだけの自己投資を防ぐ安全弁として機能します。転職を考え始めた段階の頭の整理にもなりますし。僕自身、転職のたびに痛感してきましたが、「何を学ぶか」より先に「どこへ行きたいか」が決まっていないと、学びは武器になりません。その順番を制度が強制してくれるのは、むしろ親切だと感じます。
対象になるのは「在職中」の人
もう一点、勘違いしやすいのが対象者です。この事業は、サービス登録時および初回キャリア相談時に在職している人が対象で、雇用主の変更を伴う転職を目指していることが条件になります。雇用形態は問われないので、正社員でも契約社員でもパートでも使えます。
一方、企業と雇用契約のない個人事業主・フリーランス・会社役員は対象外です。「今フリーランスだけど会社員に戻りたい」という人がこの制度を使えない点は、意外と知られていないので注意してください。
期限と予算枠に注意
事業は令和8年度末(2027年3月)までの予定ですが、補助事業者ごとに予算枠があり、埋まると受付終了になることがあります。「制度はまだあるのに、使いたい講座の枠がない」という事態は普通に起こり得ます。利用するつもりなら、検討は早めに始めたほうがいいでしょう。
在職中の会社員はどっちを使うべきか
ここからが本題です。在職中の会社員が学び直しを考えるとき、どちらの制度でスクールに通うべきか。判断軸は「転職する気があるか」と「どの講座を受けたいか」の2つです。
転職を本気で考えているなら:リスキリング支援事業が有力
1〜2年以内の転職を視野に入れているなら、リスキリング支援事業は相性がいい選択肢です。理由は3つ。
- ▸キャリア相談から転職支援までワンセットで付いてくる
- ▸教育訓練給付金のようなハローワークでの事前手続き(訓練前キャリアコンサルティング、ジョブ・カード作成、受給資格確認)が不要で、手続きの負担が比較的軽い
- ▸雇用保険の加入期間要件で教育訓練給付金を使えない人でも、在職中なら使える場合がある
転職して1年続ければ最大70%。転職前提の人にとっては、行動と補助条件が綺麗に一致します。
転職するか未定・今の会社で活かしたいなら:教育訓練給付金
一方、「スキルは付けたいが転職するかは分からない」「学んだことをまず今の仕事で活かしたい」なら、教育訓練給付金のほうが素直です。専門実践なら修了だけで50%が支給され、転職しなくてもペナルティはありません。結果的に転職して賃金が上がれば最大80%まで伸びる。転職を約束せずに、転職した場合のアップサイドも取れる設計です。
ちなみに支給率の上限だけ比べると教育訓練給付金(80%)のほうが高く見えますが、80%に届くのは転職+賃金5%上昇を達成した場合の話。「修了時点でいくら戻るか」で比べると、リスキリング支援事業は1/2、専門実践は50%でほぼ互角です。上限額と、受けたい講座がどちらの対象かで決まる、と考えたほうが実態に合います。
併用はできるのか
気になる併用の可否。同じ講座に両制度の補助を重ねることはできません。一方、別の講座であればそれぞれの制度を使うこと自体は可能とされています。たとえば過去に教育訓練給付金で資格講座を受けた人が、今回リスキリング支援事業でプログラミング講座を受ける、といった形です。
ただし、講座によってはどちらか一方の制度にしか対応していないことも多い。受けたいスクールと講座を先に決めて、その講座で使える制度を確認する順番のほうが、実務上は迷いません。
スクール選びで失敗しないための最終チェック
どちらの制度でも、高額な講座を検討するときの鉄則は同じです。
- ▸申し込む前に無料カウンセリングで、自分の目的と講座内容が合うかを確認する
- ▸経産省の事業なら「対象講座」と明記されているか、そのスクールが補助事業者かをコース単位で確認する
- ▸教育訓練給付金なら、対象指定は講座単位なので厚労省の教育訓練講座検索システムで該当コースを必ず確認する
- ▸広告の「最大◯%オフ」だけで決めない。上限額があるので、実際に戻る金額を自分の受講料で計算しておく
ここを徹底するだけで、自己投資の失敗確率はかなり下がります。
まとめ
整理します。
- ▸リスキリング補助金でスクールに通う方法は2系統。経産省のリスキリング支援事業(最大70%・上限56万円・転職前提・在職者向け)と、厚労省の教育訓練給付金(専門実践で最大80%・年間上限64万円・転職前提ではない)
- ▸スクールは「対象講座かどうか」をコース単位で確認するのが鉄則。経産省の事業は採択された補助事業者経由でしか使えない
- ▸転職を本気で考えているならリスキリング支援事業、未定なら教育訓練給付金が基本の使い分け
- ▸同一講座での併用は不可。受けたいスクール・講座から逆算してどちらの制度が使えるかを確認する
制度が2つあるのはややこしい反面、自分の状況に合わせて選べるということでもあります。働きながらの学び直しは時間もお金も削られる戦いです。使える制度はきっちり使って、自己投資の回収率を上げていきましょう。教育訓練給付金側の具体的な手続きは教育訓練給付金の完全ガイドでどうぞ。
