「電気代を下げたい」と思って調べ始めると、乗り換えのデメリットを解説するページが大量に出てきます。ただ、検索上位に並ぶ記事の運営者を一つずつ確認していくと、あることに気づきました。ほとんどが電力会社かガス会社、あるいは切り替えを仲介する比較サービスなんです。
僕が上位4本を読み比べてみたところ、傾向ははっきりしていました。デメリットとして挙げられているのは「思ったより安くならない」「解約金がかかることがある」「手続きが面倒」あたり。撤退・倒産リスクにきちんと触れていたのは1本だけで、その1本も「うちの登録企業に倒産実績はありません」という結び方でした。市場連動型プランの高騰額や、賃貸で乗り換えられないケースまで書いているものは見当たりません。
売る側が自社に不利な話を書き切れないのは、ある意味で当然でしょう。だからこの記事では、公的機関の資料と信用調査会社のデータをもとに、僕が調べて整理した内容をそのまま書きます。乗り換えを止めたいわけではありません。「怖がる場所」と「気にしなくていい場所」を分けたほうが、むしろ動きやすくなるはずなので。
まず結論|心配されがちな3点は、ほぼ杞憂
- ▸停電リスクは増えない — 送配電網は契約先が変わっても同じ。復旧作業をする会社も同じ
- ▸工事も費用も原則いらない — メーター交換は電力会社の負担。立ち会い不要のケースも多い
- ▸賃貸でも多くは乗り換えられる — ただし例外が2パターンある(後述)
ここまでは、ほぼ全ての記事が同じことを言っています。問題は、そこから先に本当のデメリットが4つあって、そちらの解像度が低いまま流されがちだという点です。
1. 市場連動型プランの価格変動リスク 2. 新電力の撤退・事業撤退リスク 3. 解約金と最低利用期間 4. ポイント・セット割の縮小
順に見ていきます。
前提|停電と工事の話を先に片づける
電力自由化で変わったのは「誰から電気を買うか」という契約関係だけで、電気そのものの通り道は変わっていません。発電所から家庭までを結ぶ送配電網は、各エリアの一般送配電事業者(大手電力会社の送配電部門が分社化した会社)が引き続き管理しています。台風や地震で停電したときに復旧するのも同じ事業者で、契約先によって順番が前後する仕組みにはなっていない。「新電力は災害に弱いのでは」という不安は、ここで解消していいと思います。
工事も同様です。切り替えにあたってスマートメーターが未設置なら交換作業が入りますが、メーターは電力会社の所有物で、費用は電力会社の負担というのが原則。国民生活センターも、電力会社を装って交換工事の費用を請求する不審な電話について注意喚起を出しています。作業自体は10〜20分程度、既存のメーターと同じ場所に付け替えるだけです。
期間の目安は、資源エネルギー庁の案内によれば交換工事が不要なら約4日、必要な場合でも2週間程度です。
本当のデメリット①:市場連動型プランの価格変動リスク
4つのなかで、金額のブレ幅がいちばん大きいのがこれ。
市場連動型プランは、卸電力取引所(JEPX)の取引価格をそのまま電気料金の単価に反映させる仕組みです。市場が安いときは大手より確実に安くなる。魅力的に見えるのは事実ですが、逆に振れたときの上限が実質的にありません。
実際に何が起きたかというと、2021年1月の寒波とLNG在庫の逼迫でスポット価格が急騰し、1月13日には日平均が過去最高の154.6円/kWh、1月15日の16時半〜17時のコマでは251.0円/kWhを記録しました。平時の相場が1kWhあたり10円前後だったことを思えば、桁が変わったと言っていい水準です。
このとき何が起きたかは、国民生活センターが2021年8月13日に公表した資料に残っています。電力・ガスの契約に関する相談は2014年度以降で7,839件に達し、そのなかには「月3万円程度だった電気料金が突然20万円の請求になった」という事例も含まれていました。「価格が変動するとは聞いていたが、ここまでとは聞いていない」という声も紹介されています。同センターは、市場連動型プランのリスクを十分理解したうえで契約するよう呼びかけました。
制度側の手当ても進んではいます。政府は2021年1月17日以降、インバランス料金単価に200円/kWhの上限を設けました。ただし、これは事業者間の精算ルールの話であって、家庭向けプランの請求額に自動的に上限がかかるわけではありません。
見分け方はシンプルです。 契約前に料金プランのページで「市場価格」「JEPX」「市場調整単価」といった語を検索してみてください。これらが単価の計算式に入っているなら市場連動型。安さのランキング上位に来ているプランほど該当する確率が上がります。避けるべきとまでは言いませんが、「請求額が読めない契約である」という自覚は要ります。
本当のデメリット②:新電力の撤退・事業撤退リスク
これも、売る側の記事では書きづらい領域でしょう。
帝国データバンクが2021年4月時点の登録新電力706社を追跡した調査(2024年3月時点)では、累計119社、全体の16.9%が撤退・倒産・廃業に至っていました。2022年3月時点では17社だったので、2年でおよそ7倍。これに新規契約の受付停止が69社(9.8%)加わります。登録事業者数そのものは2016年4月末の291社から2025年1月末には747社まで増えており、参入と退出が同時に進む再編局面が続いている、という読み方が近いと思います。
背景にあるのは調達構造の問題です。自前の発電所を持たない事業者は電気を卸市場から仕入れるため、市場価格が販売価格を上回ると売るほど赤字になる、いわゆる逆ザヤに陥ります。加えて再生可能エネルギー発電促進賦課金の引き上げや容量拠出金の新設といったコスト増も重なりました。
では、契約先がなくなったら電気は止まるのか。止まりません。経済産業省の「電力の小売営業に関する指針」で、事業者は契約解除の15日程度前までに解除予告通知を出すよう求められていて、そのうえで一般送配電事業者による最終保障供給がセーフティネットとして用意されています。
ただ、ここに実質的なデメリットが潜んでいます。最終保障供給の料金は大手電力の標準メニューの1.2倍が基本で、2022年9月からは市場価格を反映する要素も加わりました。つまり「止まらないが、放っておくと割高な契約に置かれる」わけです。撤退の通知が届いたら、次を探す作業が発生する。これは金額というより、時間と手間のコストとして数えておくべきだと思います。
対策は難しくありません。極端に安いプランに一点張りしないこと、そして契約先からのメールを迷惑メールフォルダに埋もれさせないこと。この2つで足ります。
本当のデメリット③:解約金と最低利用期間
いまは「縛りなし・解約金0円」のプランが主流になっていて、相場としても0〜3,300円程度に収まります。この点だけ見れば、乗り換えのハードルは確かに下がりました。
引っかかるのはむしろ例外のほうです。解約金が設定されやすいのは次の3タイプ。
- ▸長期契約を前提に割引率を高めたプラン — 1〜3年の最低利用期間つき
- ▸オール電化向けプラン — 深夜電力の単価が特殊なため、条件が独自になりがち
- ▸ガスや通信とのセット契約 — 片方を解約すると、もう片方の割引も外れる
とくに3つ目は要注意で、電気の解約金は0円でも、セット割が外れてガス代のほうが上がる、という形で結果的に損をすることがあります。金額の計算方法も一律ではなく、残期間分の基本料金を請求する方式や、想定電気代の10〜30%を請求する方式などが混在している。契約前に「解約金」「契約期間」「更新月」の3語を約款で検索する、これだけでかなり防げます。
なお、切り替えは1回きりの選択ではありません。縛りのないプランなら、合わなければまた変えればいい。初回はあえて縛りなしを選ぶ、という考え方もありだと思います。
本当のデメリット④:ポイント・セット割は「解体」されうる
見落とされやすいのがこれです。
電気の契約先を、料金そのものよりポイント還元やセット割で選ぶ人は少なくありません。ところが、この手の付加価値は電気料金より改定のスピードが速い。2026年に入ってからも、大手決済系カードで公共料金支払いの還元率を1.0%から0.5%へ引き下げる改定が相次ぎました。還元率で乗り換え先を決めていた人からすると、判断の前提が後から変わったことになります。
構造としてこう理解しておくといいと思います。電気料金の単価は約款の変更手続きを伴うのに対し、ポイント還元やセット割は事業者側の裁量で動かしやすい。 だから、還元率の高さだけを理由に契約先を決めると、いちばん脆い部分に乗っかることになります。
判断の順番としては、まず値引き後の実支払額で比べる。ポイントは「あれば嬉しい」程度の加点に留める。この順番を守るだけで、改定に振り回される確率はかなり下がります。
賃貸で乗り換えられるケース/できないケース
賃貸だから無理、と思い込んでいる人がけっこういます。実際には、自分名義で電力会社と直接契約している人なら、持ち家と同じように乗り換えられるのが原則です。メーターは電力会社の所有物なので、交換に大家さんの許可は要りません。退去時に元の契約へ戻す必要もない。
判断はシンプルで、検針票や請求書が自分宛てに届いているかを見れば、だいたい分かります。
乗り換えられないのは、次の2パターンです。
① 高圧一括受電のマンション
建物全体で高圧の電力契約を結び、敷地内の変圧器で低圧に落として各戸へ配る方式です。契約主体はマンション(管理組合や運営会社)なので、入居者が個別に契約先を選ぶ余地がありません。資源エネルギー庁の資料によれば、2018年12月時点で約6,700棟・約65万戸が一括供給を受けており、その後も増加傾向にあります。分譲マンションで管理組合が導入を決議した物件に多い方式です。
② 電気代を大家さん・管理会社が一括徴収しているケース
家賃や共益費に電気代が含まれていたり、管理会社から電気代の請求が来ていたりする場合、入居者は電力会社と直接契約していません。この場合も個人での切り替えはできない。
どちらに当たるかは、管理会社に「うちは高圧一括受電ですか、それとも各戸が電力会社と個別契約ですか」と聞くのがいちばん早いです。なお、原状回復や契約違反の心配はほぼ不要ですが、事前にひとこと伝えておくと後々の行き違いを防げます。
乗り換えて「損する人」の条件
安くなる前提で動くと、期待外れになりやすい人がいます。
使用量が少ない世帯。 大手電力の従量電灯は使用量が増えるほど単価が上がる三段階制で、第1段階の単価はもともと割安に設定されています。新電力の値引きはこの層に対しては効きづらく、月150kWhを下回るような一人暮らしだと、年間で数千円に届かないケースもある。このゾーンを狙うなら、値引き率より基本料金0円型のプランを探すほうが筋がいいと思います。
オール電化の家。 深夜電力を安く使う特殊な料金体系のため、通常の新電力プランに移ると逆に高くなる可能性があります。オール電化向けプランを持つ事業者に限定して比較してください。
すでにセット割を厚く積んでいる人。 ガス・通信・カードの割引が絡み合っていると、電気だけ抜いた瞬間に他が上がることがあります。電気単体ではなく、世帯の光熱費・通信費の合計で比較しないと判断を誤ります。この考え方は通信費でも同じで、携帯料金の構造を解説した記事でも触れています。
補助金の効果と混同している人。 2026年は7〜9月に電気・ガス料金の補助が実施され、電気(低圧)は7月・9月が3.5円/kWh、8月が4.5円/kWhの値引きになります。申請は不要で自動適用ですが、これは乗り換えの成果ではありません。補助のある月に切り替えると効果を過大評価しがちなので、比較は補助を除いた単価で行ってください。制度の詳細は電気代の補助金まとめに整理しています。
切り替えの手順と、押さえておく注意点
やること自体は多くありません。
1. 検針票かマイページを開く — 供給地点特定番号、お客さま番号、契約アンペア、直近12か月の使用量(kWh)を控える 2. 年間の使用量で比較する — 冬と夏で使用量が大きく違うので、1か月分だけで判断しない 3. 市場連動型かどうかを確認する — 単価の計算式に「市場」の語が入っていないか 4. 解約金・契約期間・更新月を約款で確認する — 3語を検索するだけ 5. 新しい事業者に申し込む — 旧契約先への解約連絡は原則不要(代行される) 6. 切り替え完了の連絡を待つ — メーター交換不要なら約4日、必要でも2週間程度
注意点をひとつ。引っ越しと同時に切り替えようとすると、開始日の調整が絡んで手続きが一気に面倒になります。引っ越し先でいったん既存の契約を始めて、落ち着いてから乗り換えるほうがトラブルは少ないです。
また、電話や訪問での勧誘に応じてその場で契約するのは避けたほうがいい。国民生活センターに寄せられた相談の多くは、契約条件の説明不足が発端になっています。自分で公式サイトの料金ページを開いて、単価と契約条件を目で確認してから申し込む。この一手間が、後悔する確率をいちばん下げます。
まとめ
電力会社の乗り換えは、停電リスクも工事負担もなく、賃貸でも多くの人が実行できます。そこは安心していい部分です。
一方、本当に見るべきデメリットは4つ。市場連動型プランの価格変動、撤退リスクとその後の割高な最終保障供給、解約金と最低利用期間、そしていつでも縮小されうるポイント・セット割。どれも「安さのランキング」を眺めているだけでは見えてきません。
固定費の見直しは、電気だけを単体で触っても効果が限られます。通信費や保険と合わせて世帯全体で組み直すほうが結果は大きい。進め方は固定費見直しの手順をまとめた記事に書きました。
安さの数字より先に、契約条件の3語(市場連動・解約金・契約期間)を確認する。それだけで、失敗の確率はかなり下がると思います。
