退職して次の会社まで少し間が空く。あるいは、辞めてから探す。そうなると必ず「固定費を削らないと」という話になるんですが、ネットで「固定費 見直し 順番」と調べて出てくる記事は、たいてい在職中の会社員向けなんですよね。まずスマホ、次にサブスク、保険、光熱費……という定番の順番です。
これ、退職直後の人が真似すると順番を間違えます。会社を辞めた人にとって、いちばん大きくて、いちばん手を打てる余地があるのは社会保険料だからです。しかも社会保険料の軽減は、黙っていても向こうからは来ません。申請した人だけが安くなる。
僕は転職を5回していますが、毎回すぐ次が決まっていたので、無収入で家計をやりくりした経験そのものはありません。そこは正直に書いておきます。ただ、退職手続きは5回やっているので、役所で何を聞かれてどこで金額が動くかは体で覚えました。この記事では、その手続きの知識と公式の制度・統計をもとに、削る順番を金額インパクトの大きい順に整理します。
結論:削る順番は「社会保険料 → 通信費 → 電気・ガス → サブスク」
先に全体像から。
| 順番 | 項目 | やること | 年間インパクトの目安 |
|---|---|---|---|
| 1 | 社会保険料 | 国保の軽減申請、国民年金の免除・猶予申請 | 10万〜30万円 |
| 2 | 通信費 | スマホの契約見直し、光回線の乗り換え | 5万〜10万円 |
| 3 | 電気・ガス | プラン・会社の見直し、使い方の調整 | 1万〜3万円 |
| 4 | サブスク・オプション | 解約または一時停止 | 1万〜6万円 |
桁がひとつ違うのが分かると思います。1番と2番以下では、かけた手間に対して返ってくる金額の効率がまるで違う。
なお、この表に家賃を入れていないのは意図的です。住居費は単身世帯の平均で月21,667円、単身の勤労者世帯だと月30,327円(総務省「家計調査」2025年平均)と確かに最大級の固定費ですが、無収入の状態では入居審査が通りにくく、引っ越し自体に初期費用がかかります。空白期間中に手を出す固定費としては、現実的とは言いがたい。実家に戻れる人以外は、いったん保留でいいと思います。
なぜ社会保険料が最初なのか
退職翌日から、健康保険料も年金保険料も全額自己負担になります。会社が半分持ってくれていた分がまるごと乗ってくるわけです。
国民年金保険料は令和8年度で月17,920円(日本年金機構)。1年で21万5,040円。国民健康保険料は自治体ごとに料率が違いますが、前年の所得をもとに計算されるので、退職1年目は「収入ゼロなのに現役時代の所得で請求される」という一番きつい構図になります。
そして重要なのが、ここには申請すれば効く軽減制度が二つあるという点。しかも、どちらも自動適用ではありません。
その1:国民健康保険料の「非自発的失業者の軽減」
倒産・解雇・雇い止めなどで辞めた人には、国民健康保険料を計算するときに前年の給与所得を100分の30とみなす軽減制度があります(国民健康保険法施行令の特例対象被保険者等)。
- ▸対象:離職時に65歳未満で、雇用保険受給資格者証(または受給資格通知)の離職理由コードが11・12・21・22・31・32(特定受給資格者)、23・33・34(特定理由離職者)のいずれか
- ▸軽減内容:前年の給与所得を30%に圧縮して保険料を算定(対象は給与所得のみ。事業所得や不動産所得は圧縮されません)
- ▸期間:離職日の翌日が属する月から、その月が属する年度の翌年度末まで
- ▸手続き:市区町村の国保窓口に、雇用保険受給資格者証と本人確認書類を持って申請
期間の区切り方がちょっと独特で、たとえば3月30日離職なら翌年3月末までの13ヶ月分、3月31日離職なら翌々年3月末までの24ヶ月分になります(渋谷区の説明例)。1日の違いで11ヶ月変わるという、なかなか荒っぽい仕様です。
インパクトの感覚をつかむために、ざっくり試算してみます。前年の給与収入が400万円だと給与所得はおよそ276万円。これが30%になると約83万円まで下がります。国保の所得割は基礎控除43万円を引いた額に料率(自治体により概ね1割前後)をかけるので、年間で十数万円の差が出てもおかしくありません。実際の金額は自治体の料率と世帯構成でまったく変わるので、必ず役所で試算してもらってください。
その2:国民年金の「失業等による特例免除」
こちらは離職理由を問いません。ここが国保の軽減との大きな違いです。
通常の免除審査では本人・世帯主・配偶者の前年所得を見られますが、失業を証明する書類(離職票や雇用保険受給資格者証のコピー)を添えると、本人の前年所得を除外して審査してもらえます。全額免除の所得基準は「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」なので、単身世帯であれば全額免除が通る可能性はかなり高い。
全額免除なら年間21万5,040円がまるごと止まります。しかも免除期間は、老齢基礎年金の受給資格期間に算入され、年金額にも全額納付した場合の2分の1が反映されます。10年以内なら追納もできるので、再就職して余裕ができてから払い直すという選択肢も残る。
ただし、実家暮らしや配偶者に収入がある場合は、世帯主・配偶者の所得が審査対象として残ります。全額免除が通らず一部免除や納付猶予になることもあるので、そこは窓口で確認を。申請先は市区町村役場の国民年金窓口か年金事務所、マイナポータルからの電子申請もできます。
自己都合で辞めた人はどうするか
国保の軽減は対象外になりますが、打つ手がないわけではありません。
1. 年金の特例免除は使える(前述のとおり離職理由を問わない) 2. 任意継続と国保を比較する——退職前の健康保険を最長2年続ける任意継続は、在職時の約2倍とはいえ上限があるため、前年所得が高かった人は国保より安くなることがあります。期限が退職日の翌日から20日以内と短いので要注意 3. 自治体独自の減免を聞く——所得が著しく減少した世帯向けの減免を条例で設けている自治体があります
健康保険3択(扶養/国保/任意継続)の損得の考え方は退職後の手続き一覧に整理してあるので、そちらもあわせてどうぞ。期限が14日・20日と短いものばかりなので、順番としてはここが最優先です。
2番目:通信費——スマホと光回線を一度に片づける
社会保険料の申請を出したら、次は通信費。ここが「自分の意思だけで確実に下げられる固定費」の筆頭です。
家計調査(2025年平均)の通信費は、単身世帯が月6,403円、二人以上の世帯が月11,661円。ただしこれは平均であって、大手キャリアで大容量プラン+端末分割+オプション、という構成なら1人で1万円を超えていても不思議ではありません。
見直しの手順はシンプルで、まず請求明細を「通信料」「端末代」「オプション」の3つに分解すること。高いと感じている原因が通信料なのか端末代なのかで、打ち手がまるで変わります。この分解のやり方と「実質○円」の仕組みは携帯料金はなぜ高いのかで構造から解説しました。
光回線のほうは、スマホのセット割との組み合わせで最適解が変わります。キャリアを格安SIMに替えるとセット割が外れるので、スマホと光は同時に考えないと損得を間違える。回線ごとの月額とセット割の条件は光回線おすすめ比較にまとめています。
在宅時間が増える空白期間は、通信量が増える方向に動きます。無理に容量を絞りすぎると転職活動のオンライン面接で困るので、「安いプランに落とす」より「使っていないオプションと端末代を切る」ほうを先に。
3番目:電気・ガス——「無職になれば下がる」は幻想
ここは誤解が多いところなので、少し丁寧に書きます。
総務省の家計調査(2025年平均)による水道光熱費は次のとおりです。
| 項目 | 単身世帯 | 二人以上の世帯 |
|---|---|---|
| 光熱・水道 合計 | 13,333円 | 24,544円 |
| うち電気代 | 7,337円 | 13,218円 |
| うちガス代 | 2,999円 | 4,882円 |
| うち上下水道料 | 2,136円 | 5,067円 |
単身世帯で月1万3千円、年間16万円ほど。削り甲斐がありそうに見えますが、退職後は使用量そのものが増えるという前提を置いてください。日中ずっと家にいれば、エアコンも照明も給湯もPCも稼働し続けます。通勤していた頃の実績値で予算を組むと、確実に足が出る。
そのうえで、在宅期間ならではの注意点が二つあります。
契約アンペアの引き下げは慎重に。 基本料金を下げる定番テクニックですが、在宅時間が長いと家電の同時使用が増え、ブレーカーが落ちやすくなります。真夏にエアコン+電子レンジ+ドライヤーで停電、というのは在宅中こそ起きやすい。下げるにしても1段階までに留めるのが無難です。
市場連動型プランは避ける。 電力会社の乗り換えで安く見えるプランのなかには、卸電力市場の価格に連動して単価が動くタイプがあります。うまくハマれば安いものの、収入がない時期に請求額が読めない契約を持つのは分が悪い。乗り換えるなら単価固定型を選んでください。解約金や違約金の有無も含めた注意点は電力会社乗り換えのデメリットで扱っています。
なお、国の電気・ガス料金支援は2026年7〜9月使用分について実施が決まっており、低圧の電気で7月3.5円/kWh、8月4.5円/kWh、9月3.5円/kWhの値引きが入ります(経済産業省)。申請は不要で契約中の会社が自動で値引きしますが、期間が切れれば元の水準に戻るということでもある。補助を織り込んだ金額で家計を組まないほうがいいでしょう。
4番目:サブスクとオプションの棚卸し
最後に、単価は小さいが数が多いゾーン。
家計調査(2025年平均)の単身世帯では、教養娯楽サービスが月10,840円。動画配信、音楽、クラウドストレージ、ジム、電子書籍の読み放題……月額500〜1,500円のものが5つあれば、それだけで年5万円前後になります。
やり方は、クレジットカードと携帯料金の明細を12ヶ月分さかのぼって、引き落としの相手先を全部書き出すだけ。年払いのものが混ざっているので、1ヶ月分の明細では取りこぼします。
そのうえで、「解約」ではなく「一時停止」で足りるものも多い。ジムの休会制度や、動画配信の再契約のしやすさを考えると、空白期間だけ止めて再就職後に戻す、という判断のほうが精神衛生上もいい気がします。節約で生活の楽しみを全部削ると、転職活動そのものが続かなくなりますから。
キャリアショップで契約したまま放置している有料オプションも、この機会に一掃を。ここは通信費の見直しとまとめて処理すると効率がいいです。
やってはいけない削減
削ってはいけないもの、というより「削ったつもりで後で高くつくもの」を4つ挙げておきます。
1. 健康保険に入らない期間をつくる。 「どうせ病院に行かないから」と手続きを飛ばすのは最悪手です。国保の保険料は退職日の翌日までさかのぼって発生するので、加入を遅らせても支払う総額は変わりません。変わるのは、その間に病院にかかったときに医療費が全額自己負担になるという一点だけ。得はゼロで、リスクだけが乗ります。
2. 年金を「未納」で放置する。 免除申請をせずに払わないのが一番まずい。未納期間は障害基礎年金・遺族基礎年金の受給要件(初診日の前々月までの加入期間の3分の2以上が納付または免除)を満たせなくなる原因になります。免除申請さえ出しておけば、この要件にはカウントされる。同じ「払っていない」でも、申請済みかどうかで意味がまったく違います。
3. 住民税や保険料を黙って滞納する。 住民税は前年所得への後払いなので、退職の翌年6月にも納付書が届きます。払えないときに放置すると延滞金がつき、最終的には財産の差押えもあり得る。一方で、市区町村に相談すれば分割や徴収猶予に応じてもらえる場合があります。滞納と相談は扱いが別物なので、先に窓口へ。
4. 転職活動そのものへの投資を削る。 交通費や証明写真、スーツのクリーニングをケチって空白期間が1ヶ月延びたら、削った額の何倍も失います。空白1ヶ月のコストは、社会保険料だけでも3万〜5万円。ここは削る場所ではありません。
収入側の見通しも一緒に立てておくと、どこまで削るべきかの判断が楽になります。失業保険の受給額は失業保険はいくらもらえるかの早見表で概算できるので、支出の見直しと同時に確認しておいてください。
まとめ:役所に行く日が、いちばん効率のいい節約日
退職後の固定費見直しは、順番さえ間違えなければそんなに難しくありません。
1. 社会保険料——国保の軽減(会社都合なら前年給与所得を100分の30)と、国民年金の失業特例免除(離職理由を問わない)。どちらも申請しないと1円も安くならない 2. 通信費——明細を「通信料・端末代・オプション」に分解してから、スマホと光回線をセットで見直す 3. 電気・ガス——使用量は増える前提で。アンペアダウンと市場連動型プランは在宅期間には向かない 4. サブスク——12ヶ月分の明細から棚卸し。解約ではなく一時停止で足りるものも多い
スマホの乗り換えは半日がかりで年6万円、役所での申請は1時間で年20万円。効率という意味では、勝負はもう最初の1週間でついています。制度の細かい条件と実際の金額は自治体・年金事務所で変わるので、試算だけは必ず窓口で取ってください。行った日がそのまま、いちばん時給の高い日になります。
