「退職前に申請すれば給付金が最大○百万円」。SNSでこういう広告を見かけて、気になって検索したら「怪しい」「詐欺」というサジェストが出てきた。今この記事を読んでいるあなたは、たぶんそういう状態だと思います。
僕はデジタルマーケティングの仕事を10年やっている現役会社員で、転職を4回経験しています。離職票やハローワーク、保険証の切り替えといった退職後の手続きは一通り自分でやってきました。一方で、給付金サポート会社を利用した経験はありません。だからこの記事には「使ってみた感想」は出てきません。その代わり、各社の公式情報・公的機関の一次情報・公開されている比較記事を突き合わせて、広告を「出す側」の人間として数字の読み方も含めて中立に整理します。
先に結論:制度は本物。本題は「無料で自分でもできることに、数十万円払うか」
最初に疑問へ答えておきましょう。
- ▸「社会保険給付金」と呼ばれている中身は、正規の公的制度です。 健康保険の「傷病手当金」と雇用保険の「失業手当(基本手当)」のことで、架空の制度ではありません。
- ▸サポート会社の仕事は「申請の仕方を教えること」。 申請の代行は法律上、社会保険労務士か弁護士にしかできません。まっとうな会社はこの線を守って運営しています。
- ▸ただし費用は数十万円規模。 相場は受給見込み額の10〜15%程度です。そして重要なのは、これらの申請は自分でやれば無料だということ。窓口はハローワークと健康保険組合(協会けんぽ)で、手数料は一切かかりません。
- ▸サポートを使っても受給額は1円も増えません。 金額は法律と給与実績で決まるからです。
つまり検討すべきは「詐欺かどうか」ではなく、「自分で無料でできる手続きに、手間と不安の削減料として数十万円払う価値が、いまの自分にあるか」。この記事はその判断材料を揃えるためのものです。
そもそも「社会保険給付金」とは何か
まず前提から。「社会保険給付金」という名前の制度は存在しません。 これはサポート業者側が便宜的に使っている総称で、実体は次の2つの公的制度です。
傷病手当金(健康保険):医師の「働けない」という判断が大前提
業務外の病気やけがで働けなくなったときに、健康保険から給与のおよそ3分の2が支給される制度です。連続3日間の待期のあと4日目から、通算で最長1年6ヶ月受け取れます。うつ病などの精神疾患も対象になり得ます。退職後も、加入期間などの条件を満たせば継続して受給できる場合があります(協会けんぽの解説)。
ここで絶対に押さえてほしいのは、支給の可否を決めるのは医師の判断だということ。「労務不能」という医師の意見があって初めて成立する制度で、働ける人が受け取ることはできません。もし「診察でこう言えば通ります」と症状の伝え方を指南する業者がいたら、それは不正受給への誘導です。発覚すれば返還はもちろん、詐欺罪に問われる可能性すらある行為なので、どれだけ生活が苦しくても関わってはいけません。
失業手当(雇用保険の基本手当):働ける人が仕事を探すための制度
こちらはおなじみの失業保険です。働く意思と能力があり、求職活動をしている人に支給されます。自己都合退職の場合、2025年4月以降の離職なら給付制限は原則1ヶ月に短縮されました(詳しくは自己都合退職の失業保険はいつからもらえるかで解説しています)。
注意点として、傷病手当金と失業手当は同時には受け取れません。「働けない人」への給付と「働ける人」への給付なので、性質上両立しないんですね。だから業者の言う「組み合わせ」とは、傷病手当金を受給し、失業手当の受給期間延長を申請しておき、回復後に失業手当へ切り替えるという時系列の設計のことを指しています。
「最大28ヶ月」の正体
広告でよく見る「最大28ヶ月分」は、傷病手当金の1年6ヶ月(18ヶ月)+失業手当の最長給付日数(障害者等の就職困難者に該当した場合の300日超)を単純に足した理論上の最大値です。全部の条件が揃った場合の上限であって、誰でもこの期間もらえるわけではありません。この最大値をあたかも標準であるかのように見せる広告は、景品表示法的にもかなり際どいラインだと僕は思います。
サポート会社は何をしてくれるのか(合法性の整理)
ここが「怪しい」問題の核心です。法律の線引きを整理しましょう。
報酬を得て社会保険・雇用保険の申請書類を作成し、手続きを代行できるのは、社会保険労務士(と一部業務の弁護士)だけです。 社労士法で定められた独占業務であり、無資格の会社が「申請をすべて代行します」と請け負えば法律違反の可能性が出てきます。
では民間のサポート会社は何をしているのか。まっとうな会社の業務は次の範囲に収まります。
- ▸本人の状況(在職期間・体調・退職時期)を聞き取り、使える制度と申請の順番を整理する
- ▸必要書類の入手方法と書き方を説明する(記入例の提供)
- ▸申請期限のリマインドや、進行中の疑問への回答
- ▸社労士による申請代行が必要な場合は、提携社労士を別途案内する
つまり払っているのは代行料ではなく、「制度の組み合わせ設計と伴走」への料金です。逆に言うと、申請書を書いて窓口に出すのは結局自分。ここを理解せずに「全部丸投げできる」と思って契約すると、期待とのギャップが生まれます。
費用相場:何にいくら払うのか
主要サービスの公開情報と外部比較記事を突き合わせた費用感がこちらです(2026年8月時点の調査ベース。正確な金額は必ず各社の説明会・公式で確認してください)。
| サービス | 運営会社 | 費用の目安 | 返金保証 |
|---|---|---|---|
| 退職コンシェルジュ | CREED BANK株式会社(2016年設立) | 公式非公開。受給見込み額の10〜15%程度が目安と案内。外部記事では税込20万円台〜60万円弱と幅のある記載 | 申請が通らなかった場合の全額返金保証あり(条件は要確認) |
| 社会保険給付金アシスト | 株式会社スムリエ(2021年サービス開始) | 外部記事で税込33万〜44万円程度 | 記載が明確でないため要確認 |
| その他の新興サービス | 各社 | 数万円の格安型から60万円超まで大きくばらつく | サービスによる |
見ての通り、相場は「受給見込み額の10〜15%」、金額にして数十万円です。仮に総受給額が300万円なら30〜45万円。決して小さい出費ではありません。
最大手の退職コンシェルジュは、運営会社情報(法人登記・プライバシーマーク・有料職業紹介の認可)を公開し、2016年からの運営で利用者5,000名以上・受給率97%を公表しています。事業の実在性という意味では確認できる材料が揃っている部類です。ただし料金を公式サイトに明記しておらず、無料WEB説明会で個別提示される方式なので、契約前に総額・支払い方法・返金条件を書面で確認することが絶対条件だと考えてください。
なお、受給率97%のような数字は「説明会と個別相談を経て、受給できる見込みが高い人だけが契約に進んだ結果」も含んだ数字です。母数の取り方で印象が大きく変わるのは広告の常なので、嘘とは言いませんが、額面通り「誰でも97%」とは読まないのが賢明でしょう。
自分でやる場合との比較
一番大事な比較です。前提として、どちらを選んでも受け取れる金額は同じ。違うのは手間・確実性・費用の3点だけです。
| 項目 | 自分で申請 | サポート利用 |
|---|---|---|
| 費用 | 無料(手数料は一切ない) | 数十万円(受給見込み額の10〜15%程度) |
| 受給額 | 制度で決まる | 制度で決まる(増えない) |
| 制度の調べ方 | ハローワーク・健保組合・年金事務所が窓口で教えてくれる。ネットにも一次情報が揃っている | 状況に合わせた申請の順番を設計してくれる |
| 書類・期限管理 | 自分で管理。不備があれば窓口で指摘・修正 | チェックとリマインドをしてもらえる |
| 精神的負担 | 体調不良のときはこれが一番重い | 相談相手がいる安心感はある |
| 失敗リスク | 期限切れ・申請漏れは自己責任 | 返金保証で金銭的には保護される場合がある |
正直に言うと、失業手当だけなら自分での申請を勧めます。ハローワークの窓口は無料で丁寧に教えてくれますし、毎年何十万人もの人が普通に自力で手続きしている制度です。流れは退職後の手続き一覧にまとめてあるので、まずそちらを見てから判断しても遅くありません。あわせて、自分の失業保険がいくらになるかを先に計算しておくと、「サポート費用が受給額に見合うか」を具体的な数字で比べられます。
サポートに価値が出るとすれば、傷病手当金が絡むケースです。体調を崩して働けない状態で、傷病手当金→受給期間延長→失業手当という設計を自分で調べて期限管理まで行うのは、実際しんどい。その手間と不安を数十万円で外注する、と割り切れるなら選択肢になり得ます。それでも契約前に、加入している健康保険組合の窓口に一度無料で相談してみることを勧めます。案外それで足りることも多いはずなので。
怪しい業者の見分け方5つ
制度が本物でも、それに群がる悪質業者は実在します。次のどれかに当てはまったら候補から外してください。
1. 運営会社情報が確認できない。 会社名・代表者名・所在地が明記されていない、国税庁の法人番号公表サイトで実在を確認できない。この時点で論外です。 2. 「誰でも○百万円」「必ず受給できます」と断定する。 受給可否は個人の条件と医師の判断で決まるもの。断定した時点で誇大広告です。 3. 医師への症状の伝え方を「指導」する。 前述の通り不正受給への誘導であり、実行すればあなた自身が詐欺罪に問われかねません。即座に離れてください。 4. 返金保証の条件が書面で確認できない。 「全額返金」と大書きしつつ、適用条件が曖昧なケースがあります。契約書で条件を確認できないなら保証は無いのと同じです。 5. 契約を急がせる。 「今日中の申し込みで割引」など即決を迫るのは、比較検討されると困る業者の典型的な手口です。
向いている人・向いていない人
サポート利用を検討していい人 - 体調を崩して働けない状態で、傷病手当金を含む設計が必要な人 - 受給見込み額を計算した上で、費用を払っても手元に残る額と安心感に納得できる人 - 説明会で総額と返金条件を書面確認し、冷静に比較する余裕がある人
自分でやるべき人(サポート不要な人) - 失業手当の申請だけが目的の人(ハローワークで無料で完結します) - 数十万円の出費が生活資金を圧迫する人(本末転倒になります) - すでに転職先が決まっている人(そもそも対象外です)
なお、「会社を辞めること自体が言い出せない」という段階の悩みなら、給付金サポートではなく退職代行の領域です。その場合は退職代行の選び方ガイドを先に読んでください。
まとめ:怪しいかどうかではなく、費用対効果で判断する
最後に要点を並べます。
- ▸「社会保険給付金」の実体は傷病手当金+失業手当という正規の公的制度。制度自体に怪しさはない
- ▸サポート会社ができるのは助言と伴走まで。申請代行は社労士・弁護士の独占業務
- ▸費用相場は受給見込み額の10〜15%、数十万円規模。自分でやれば無料で、受給額はどちらでも同じ
- ▸失業手当だけなら自力で十分。傷病手当金が絡み、体調的に自力管理が難しい人だけ、書面確認を前提に検討の価値あり
- ▸「誰でも」「必ず」「医師にこう言え」が出てきたら、その業者からは逃げる
数十万円は、退職後の生活では大金です。広告の「最大28ヶ月」に飛びつく前に、まず自分の失業保険額を計算して、退職後の手続きの全体像を眺めてみてください。それでも一人では無理そうだと感じたら、そのときに初めて、運営情報と返金条件を確認できる会社の無料説明会で話を聞く。この順番なら、大きく間違えることはないと思います。
